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トヨタが2014年にミライを一般販売し、16年にはホンダもクラリティフューエルセルのリース販売を開始。そしてメルセデスベンツも、17年にはGLCをベースとした燃料電池車を発売すると発表した。ついにグローバルで動き出した燃料電池車時代。ここでその現状と今後を見ておこう。
まずは燃料電池車をめぐる現状を知っておこう
「究極のエコカー」として、世界の注目が集まる燃料電池車。ハイブリッド、プラグインハイブリッド、EV。それらのさらにその先に本格量産が期待され、主要自動車メーカーが開発を進めている。
燃料電池車の基礎研究は1980年代から始まり、90年代にテスト車の走行を開始。そして90年代後半から2000年代はじめ、第一次燃料電池車ブームが到来。当時の小泉首相が首相官邸の周辺を、トヨタとホンダのテスト車で走行して話題を呼んだ。
しかし、その時は量産化に向けた部品の低廉化や、インフラ整備が進まず、日本のみならず世界全体でブームは終焉してしまった。
それから10年を経て、再び燃料電池車の量産計画が本格化。日本では政府が「2015年を水素元年」と命名した。
09年導入の家庭用燃料電池「エネファーム」が10万台を突破。そうした社会基盤の上で、燃料電池車を含めた水素社会の実現を目指すと、政府の鼻息は荒い。
現在、燃料電池車普及に向けて具体的なプランを持っているのは、日本、ドイツ、イギリス、そしてアメリカ。これらの国では政府主導で、水素ステーション網の拡大策を講じている。
ただアメリカではカリフォルニア州に特化している。ゼロ・エミッション・ヴィークル規制法(ZEV法)が、その理由だ。
それらの国以外で、これから気になるのは中国の動きだ。今年に入って、米ZEV法を参考にしたニュー・エネルギー・ビークル規制法(NEV法)の強化を打ち出した。今後、中国メーカーが世界各地から燃料電池車の研究者を買いあさることになるだろう。
2016年現在の勝ち組メーカーはどこだ?
ズバリ、トヨタが独走している。正直なところ、主要自動車メーカーの多くが、第一次ブーム崩壊の苦い経験を踏まえて、最近の燃料電池車の動向に対して慎重な構えを見せている。
それに対してトヨタは「儲かっている今だからこそ、未来に対して大型投資をする」という戦略だ。量産燃料電池車「ミライ」を一般向けに販売するなど、やはり他メーカーの一歩先を言っている感が強い。
こうしたトヨタの動きに、日本政府が乗っかったと言える。また、トヨタは前述の米ZEV法の数量規制をEVではなく燃料電池車で対応するとの事情もある。
そのトヨタと連携するBMWは、ドイツ国内の政策とも連動するが、車両価格を既婚者+10%程度に抑えるという目標を掲げたため、現在コスト削減を必死にやっている。量産モデルの登場は早くても2020年頃だ。
トヨタ以外で燃料電池車を量産している唯一のメーカー、ホンダはほトヨタの動きに離されないように、適度な距離を保ちながら追いかけるという方針だ。ホンダとの共同開発を進めているGMも、量産は2020年頃の予定。
面白いは日産だ。日産は今年の6月に発表したように、バイオエタノールによる自車内での水素精製方式を採用し、トヨタ、ホンダとの差別化を図る。
しかしその日産、2013年にダイムラーそしてフォードと燃料電池の共同開発を発表しているが、その後の動向が、いまいち不明。ダイムラーは近く、ベンツGLCベースのテスト車を公開する模様だが、日産との関係に注目が集まっている。
意外なところでは、すでに「ツーソン」ベースの燃料電池車を持つ韓国のヒュンダイが、伏兵となる可能性がある。
ヒュンダイは韓国南部の工業都市・光州市において、政府と共同で燃料電池の開発拠点をオープン。打倒トヨタを目標に掲げて、次世代型の改良に日々励んでいる。
それでは今から10年後の勝ち組はどこなのか?
今から10年後の2016年。その時点での勝ち組になる為の条件は、実はメーカー側ではなく、国側にある。現在、燃料電池の政策にアグレッシブな国は日本とドイツ。つまり、メーカーでは日系ビッグ3と独ビッグ3が10年後の勝ち組になっている可能性が非常に高い。
逆に言えば、巨額の開発投資が必要な燃料電池車には、大手メーカーしか参入できない。中堅以下のメーカーは大手からのOEM供給を受ける形になるだろう。
そして、やはり怖い存在なのが中国だ。今の販売ペースで進めば、2026年の中国は年間4000万台規模となり、アメリカや日本を大きく引き離す自動車超大国になる。
EVや燃料電池車を一気に拡大させ、大幅にコスト削減。多くの自動車メーカーが中国からのOEM供給を受ける時代になる、かもしれない。